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第1章 Seed《種》17
「ほんとだ……テオはそんな先の手まで読めるの?」
「基地の仲間たちでよくやるから慣れてんだよ。しょーもない金額とか物品なんか賭けてな」
初心者相手なら当然かもしれないが、大して威張る様子も見せない。勝つのに慣れているのだろう。
「こんなに強いならテオの一人勝ちでしょ」
「いやいや、俺なんて弱い方さ」
「本当に? 対戦相手は人族?」
「ベースキャンプでも人族と獣族は別れて訓練してるからな。今んとこ俺の遊び仲間はみんな獣族さ」
「へえ……」
ということは、テオよりももっとチェスの強い獣族が軍には沢山いるということだ。
初日にバカにされてから文献をネットや図書館で読み漁ったので、今は多少獣族に関して詳しくなった。
でも書いてあることを読めば読むほど頭は混乱し、疑問が生まれるようになった。
そのひとつが、獣族は知能が低く理性的ではないという一説に関してだった。
十日ではあるがテオと話していて意思疎通が図れなかったことは今までに一度もない。
それどころか去年単位を落としてしまった苦手な物理学の宿題を教えてくれたりして、チェスもそうだしある分野ではおそらくリリアスよりもはるかに頭が良い。加えて世情にも明るい。
そもそも、あんな瀕死の状態でも錯乱することなく言うことをちゃんと聞き入れ、指示に従ってくれた人物が低能なわけがないのだ。
これがもし、テオが特別というわけではなく獣族全体に言えることだとしたら、獣族に対してまかり通っている一般論はかなりの曲解になる。
「ねえ、テオ」
「ああ?」
「テオはいつから軍獣なの?」
「十八歳からだから……早いなー、もう七年前か」
「そろそろおっさんの仲間入りだなあー」と全然違うところで感慨に浸っているテオを会話に引き戻す。
「前に獣族の職業は決まってるって言ってたよね。獣族も仕事の自由選択はできるはずなのに、何で選べないの?」
「俺の故郷、どこか言ったっけか?」
「聞いてない」
「ハディドネイ州」
連合の中でも上位で治安が悪いとされる、獣族が九割を占める州。
残り一割の人族も裕福とは言いがたい暮らしで、いわゆるゲットーと呼ばれる区域だ。
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