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第1章 Seed《種》19
「ごめんなさい……」
リリアスは一言、声のつやを削いで唸った。
「ん? 何で謝る?」
「こんなに何もできない僕が、のうのうと人族だから」
「バカだなあ。おまえだって人族を選んで生まれたわけじゃねえだろ? そんなことは謝んなくっていいんだよ。恵まれて生まれてきたからって、本人に悩みが一つもないなんてわけない。そうだろ?」
テオは柔らかい声でそう言った。
熊の表情はわからないけれど、ふわっと柔らかい笑みを浮かべているような気がした。
「でも僕は今まで努力もしないで、ものごとを深く考えもしないで、ただただやりたくないことから逃げてただけだ」
「少なくとも、そうだったって気づくことはいいことなんじゃねえか。偉い偉い」
全然偉くなんかない。
自分が与えられた環境に甘えていたと気づけたのも、テオと接したからだ。
「リリアスはまだ十九歳じゃねえか。自らの力で出来ることは、これからいっぱい出てくるさ。それを自分なりにまっとうしな」
「まだ何も見つかってないけど、僕には……何かできることはあるのかな」
まぐれのテストスコアと若干のコネで医学部に受かったけれど、大学では何をやっても平均点以下で、自発的な目標もない。
土いじりは好きだけれど趣味の範囲で、花屋で働く夢なんて結局現実から逃げるための妄想に過ぎない。
自分の可能性は何なのか、それが本当に備わっているのか不安だった。
「いつか必ず見つかるさ。今はたくさん考えて悩んだらいい」
茶化すように肉球で両頬をむぎゅっと挟まれる。
「へお、いはいよ」
ははは、とテオは声を上げて軽快に笑った。
誰にも打ち明けたことのない将来への漠然とした不安を、テオにならすんなり話せている自分に驚いていた。
友達と言える人物がいなかったわけじゃない。
両親と仲が悪いわけでもない。
でも、ここまで深く自分の心情を吐露した相手は初めてだった。
彼になら、何を打ち明けても決して否定しないでいてくれると思ったからだ。
リリアスの心の中で、テオは今までにない位置に立つ話し相手だった。
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