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第1章 Seed《種》22
「もういいっ医大なんて今すぐやめてやる! どうせ医者なんて、一ミリも向いてないんだ! 僕みたいな臆病者に治療される患者は世界一可哀想だ!」
「おいおいそれを俺に言うかよ?」
笑いとピタッと止めたテオの声は神妙そうだ。
「そうだよ、心からテオに同情するね!」
「…ていうか俺を縫ったときは全然平気だったじゃねえか。うさぎなんかよりよっぽどでかいのに」
「そういえばそうだけど……」
でもあんなのビギナーズラックみたいなもんで、普段の実力じゃない。それに記憶もあいまいでもうよく覚えていない。
「あれは夜だったし、なんか気が動転してたし、とにかく助けるのに必死だったから……」
「でも、ちゃんと最後までできたじゃねえか。しかも実践で」
ようやく呼吸を整え、思い立ったようにテオは立ち上がって机の上に載せていた救急箱を開ける。
メスを取り出したかと思えば一瞬で躊躇いなくしゃっと自分の右腕を裂いた。
「ぎゃっっ!」
悲鳴を上げたのはリリアスの方だった。
つーっと血が重力に従いぽたぽたと垂れて、木目の床を赤く染めた。パニックでおろおろした。
「ななな何やってんのっ⁉ ねえ何やってんの⁉」
「ほら、縫ってみ?」
テオはと言うと、至極落ち着いた表情でその腕を差し出す。
「ばかっもうばかあああっ! だからここには麻酔がないんだってばああっ」
「大丈夫大丈夫。これくらいの傷麻酔なんかいらねえって。獣型にもなんねえから、ほら」
正気の沙汰とは思えない。半分泣きそうになりながら同じ鞄から針と糸を取り出す。声も指先も震えている。
「どうかしてる、もうこの人どうかしてるよー」
「はいはい、わかったから集中しな」
消毒を済ませ前回の要領で皮膚を縫い合わせる。幸い傷は浅く、七針で済んだ。それでもじゅうぶん立派な傷ではあるが。
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