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第1章 Seed《種》23
「ほら、気絶せずできただろ? お、前回より綺麗に縫えてんな」
「できただろ? じゃないよっ! ようやく脚が治ったと思ったのになんで自分で傷増やしてんの? 僕が今日みたいに倒れてたらどうしてたつもり⁉」
額に浮いた脂汗をぬぐいながら叱責する。
「そんときゃツバでもつけてもう一回目が覚めるの待ってたさ」
「絶対おかしい! 信じらんない!」
針とメスを鞄にしまって部屋の外に隠す。何をしでかすかかわからないテオの手の届く場所に、刃物は置いておいちゃいけないのだとたった今学んだからだ。
「驚かせて悪かったって。でもこれで証明されたな、やっぱり俺相手じゃぶっ倒れねえって。さて、縫うとき何考えてた?」
「そりゃ早く治療しなきゃって……テオが死んじゃうって」
ぱちんとテオは指を軽く鳴らす。
「よし、じゃあ毎回解剖でもなんでもこれをやんなきゃ俺が死ぬと仮定して講義に出ろ。今の感覚を覚えてろよ? そしたら気絶しない」
「そ、そんなわけないじゃんっ。暴論すぎるよ!」
「医者だってイマジネーションも重要だろ? ……多分」
「テキトーすぎ!」
その日、自分の悩みを打ち明けたことを心から後悔したリリアスだったが、テオの提案を試みると次の授業で意外にもうまくいった。
メスを持つ前に集中してテオの倒れてる姿を思い描く。するとなんのホルモンが分泌されるかはわからなかったが、気が遠くなることなく最後まで授業に集中できたのだった。
「ひとつ苦手を克服したな。俺に感謝しろ?」
授業成功の報告すると満足げに何度も頷いている。
が、こちらはなんだか面白くない。
「傷口に塩塗るどころか全身金属ケーブルでぐるぐる巻きにして百ボルトの電気流すみたいなショック療法だけどね!」
ははっと愉快な笑い声が返ってくる。
「獣族は人族より痛みの感じ方が鈍いのかな?」
神経の差はあるのだろうか。気になって聞いてみる。
「そればっかりは人族を経験できねえから何とも言えんな。女のオーガズムを一生わからねえのと一緒で」
初めてテオから性がからむジョークを聞いてあからさまに戸惑った。その手の話題は得意じゃない。
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