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第1章 Seed《種》2
家に飛び帰るとキッチンに祖父が立っているところだった。
「……おじいちゃん…ただいま」
「リリアス? そんなに息を切らしてどうかしたのか?」
先ほどのことを告げるべきか迷った。
しかし優柔不断で判断力に欠けるリリアスは突然出くわしたアクシデントにどうしていいかわからず、いったん何も見なかったことにした。
「な、何でもない! 良い匂いーお腹すいちゃった!」
耳の遠い祖父に向かって大きく首を振り、元気な声を出す。
「シチューにしたぞ」
「楽しみ!」
「もうそろそろ出来るから、待ってなさい」
「じゃあそれまで部屋で宿題してるね!」
二階の自室に入るとデイバッグを肩から下ろしもしないで何度も荒い呼吸を繰り返した。
「獣族…めっちゃめちゃおっきかった…」
ようやく呼吸が落ち着き、思考が少しだけ戻ってきた。大丈夫だ、あの獣族は自分よりもっと大人の誰かが見つけて助けてくれるだろう。
そう言い聞かせ宿題を始めてみたものの、一向に集中できない。
考えるのは先ほどの熊のことばかりだ。忙しなく貧乏揺すりをしながらリリアスはパソコンを立ち上げ、獣族の歴史を検索してみる。
二つの人種の頭文字を取ってこの国がHN連合国と名付けられたのは今からおよそ三百年前。
元々独立していた人族と獣族が統一し、国家になってから長らく、獣族は人族から下等な種族として扱われていた。
獣族の解放宣言がされたのはおよそ百年前。それから獣族は人族とほぼ同等の権利が法的には与えられたものの、実際はまだまだ貧富差や差別は根強く、生活や居住区域は分断されている、とオンライン百科事典には記載がある。
事実リリアスも高校までは人族のみで構成される私立校に通い、州立の医大でも獣族を見かけることは一切なかった。
「じゃあなんで、あんなとこにいたんだろ…」
読みながらスクロールを続ける。
「獣族の存在は近年再度問題視されてきており、人族は極力関わらないように小さい頃から教育される。人族とは居住区域を完璧に分けた方がいいと唱える派閥の支持者も少なくない、か…」
この派閥についてはよく知っている。祖父がまさにそうだからだ。
「弾圧を受け獣族側の反発も高まり、ストが数多く行われている? へえ」
時計を見ると夕食の時間だったのでリリアスは一旦一階に降りることにした。
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