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第1章 Seed《種》3
「おじいちゃん、…獣族を見たことはある?」
「そりゃあるさ。わしが子供の頃は世の中は整備されておらんくって、もっと混沌としとったからな。どれだけひどかったかっていうと…」
そこからいつもの長い昔話に突入したので質問したことを若干後悔しながら食べ終えた。
祖父は今の国の政策をよろしいとは思っていない。
リリアスといえば、もちろん一般教養として獣族のことを認識はしている。が、良いか悪いか表明出来るほど意見があるわけでもなく、獣に自在に形を変えられる人々の存在は童話の登場人物くらいに思っていた。
まさか本当に実在していて、更に目撃してしまうとは。
「次の選挙でもわしはもちろん第三党に入れるぞ。獣族共存主義内閣なんてたまったもんじゃないからな。リリアス、おまえもあと一年で選挙権を持つんだから…」
「ごちそうさまでした! お皿、洗っちゃうね!」
まだまだ話が続きそうな祖父の食器を自分のものと一緒に片付けたら、リリアスはまた二階に籠もって考えた。
物心ついたときから臆病で、やっかい事には極力首を突っ込まない主義だ。クラスで争いが起こっても、できるかぎり気配を消し人の後ろに隠れ、標的にならないよう避けてきた。
初めて近くで見た獣族、それも熊、正直かなり怖い。関わらない方が正解だ。
とはいえ。
誰かが見つけてくれるって、そもそも一通りのほとんどない獣道だ。
どうやってあんな森の中で助けを呼ぶのだろう。
街に出るにしたってたくさん出血していたし、歩ける状態ではなかった。
今自分があの現場を見なかったことにしたら、一人の獣族を見殺してしまうことにならないか。
罪に問われないとしてもそれは果たして倫理的な行為なのだろうか。
今から何事もなかったようにベッドに入って眠れば、同じ明日はやってくる。でも自分は一生後悔することにはならないだろうか。
だって、ちゃんと言葉も綺麗なアクセントで話していた。変化する前は、ただの人に見えた。
祖父が寝静まった頃。
決意して、リリアスはすっくと立ち上がった。
肩にかかる金髪の髪を髪用ゴムで結んだら、物音を立てずに地下室に向かう。
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