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第1章 Seed《種》4
祖父が医者として働いていた頃は、一階にメインの医務室があり、地下を第二医務室兼倉庫として使用していた。
祖父の引退後、一階は完全改装して居住スペースになっているが地下室だけはそのままに、医療道具が少しではあるがまだ貯蔵されている。
そこから救急箱やら役に立ちそうな道具を一通りひっ掴んで、今度はガレージに入った。
ヘッドライト付きヘルメットを被り、アシスト機能装備のダンプカートを引っ張り出した。エンジンをかけごろごろ進む。祖父の庭仕事を手伝っていたので操作はお手のものだ。
夕方獣族を見かけた場所まで戻ると、熊は変わらず木の幹に寄りかかっていた。しかしぴくりとも動かない。
「い、生きてますかー…?」
用心しながら近づき鼻先に手を当てると、わずかではあるが息をまだしていた。
「よかった…」
リリアスの声に反応して粗い息をふうっと熊が吐いた。反射的にざざっと数メートル下がる。木の陰から声を張り上げ呼びかけた。
「す、すみませーん! 僕の言葉、わかりますかー?」
俯いた格好のまま熊はこくりと頷いた。
「その声はさっきの、…お嬢…ちゃんじゃねえか」
「まず第一に僕は男でお嬢ちゃんじゃありません! そしてあなたを今から助けます! 傷口を縫うので人型になれますかーっ?」
十秒ほど待つと、ゆっくりと熊は人の姿に戻っていった。
身体を覆う毛がしゅるしゅると皮膚の内側に引っ込み、体積が減り、代わりに白い肌が表れる。ぴょんと頭のてっぺんで飛び出るふたつの茶色い耳も同じ色の髪の毛の中に消えていく。何かの魔法みたいだ。
人の姿になった熊に少し警戒心を解いて、リリアスはじりじりと近寄った。
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