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第1章 Seed《種》6
「あああっ! 熊の姿に戻らないでって言ったじゃないですか!」
「無理言うな、人型保つにはエネルギーいるんだぞ。普段ならまだしも、こんな状態じゃ、難しいんだ…」
「難しくても、やり直し! もう一度最初から!」
二回目、三回目も失敗。貝殻のイヤリングを返してもらうどころか二番の歌詞にも行けやしない。リリアスは玉になって垂れる汗を拭いた。
「ああっもうっ! わかりました、その姿のままやりましょう!」
熊の姿のまま、小型の電動芝刈り機を腰に巻いた園芸セットから取り出す。持ってきてよかった。起動させて脚の毛を一気に刈ったら糸を頑丈な釣り糸に変える。そのころには熊と血液に対する恐怖はもうどこかに行っていた。
もう一度、今度は太い獣の脚に針を通す。
「いいかんじです! ゆっくりそのまま呼吸していてください!」
熊はうなりはするが無駄な力を入れなくて良いようで、人型よりも痛がらず、スムーズに接合できた。
傷口の上から大量のガーゼとシーツを巻いて固定する。
「よし、できた…! 次! この布に乗ってください。エンジンのかかるとこまで僕がいったん引いて行きますから!」
「お嬢ちゃんが? そんな細っこい身体で、無理だろう」
「いけます! さあ早く!」
熊は見たところ二百キロはある。しかし、また形態を人型に変えられたら接合部分が今度は緩み、今までの苦労が無駄になってしまう。
何度も転びそうになりながら、どうにか熊が乗った布を必死で引いた。
スポーツは幼い頃から何をしてもてんで駄目で、ひ弱だとクラスメイトから散々からかわれてきたのに、火事場の馬鹿力とはまさにこのことだ。
平坦な道まで来るとダンプカートのエンジンを掛ける。
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