君がくれた嫌悪

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 この布団干したの何ヶ月前ですか。そう訊かれて記憶を探ってみたが思い出せない。大昔、記憶の彼方、多分ジュラ紀。いい加減に答えた。  まあ確かにあなた恐竜の時代から生きてきたような感じしますわ、何でも知ってるし。  何も知らないけどね。汗で体に張り付くシャツを皮膚を剥がすように脱いだ。窓を開けているが風がないため部屋が涼しくならない。空気が重くその場に留まり続ける熱帯夜。こんな夜にこんな肥えた男と寝ようとしているのだから俺も頭がおかしいとは思う。  ねえ本当にいいんですか。肥えた男がズボンのホックを外しながら言った。言っていることとやっていることがちぐはぐである。少し面白い。笑えないけど。俺は質問には答えずに、下から脱ぐんですねとだけ言った。男は俺ののらりくらりとした態度に溜め息をついた。いいならいいんですけど、と呟いた。男が布団の上の俺に近付き俺のズボンに手を掛けた。酸っぱい汗の臭い。同じ生き物の汗の臭いなのにここまで不快になれる臭いとそうじゃないのがあることが不思議だ。  他人の体液と自分の体液を混ぜる。皮膚を擦り合わせる。吐息で湿度が上がる気がする。渇いた舌を相手の唾液で潤す。あー、嫌いだ。こいつの臭いも体型もガサガサベタベタした皮膚も。でも一番嫌いなのは気持ち良くなっている自分自身だ。自分が一番嫌いだ。俺が辞めると言えば終わるはずなのに。達すれば一瞬で消えてなくなる心の中の詰め物をどこまでも求めて口が動く。もっともっともっともっとくださいくださいくださいくださいください。  本当にいいんですかなんて訊くんじゃない。いいわけがない。
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