君がくれた嫌悪

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 いや本当にこの布団最後に干したのどれくらい前なんですか。男が言いながら煙草に火を点けた。  石炭紀。  さっきより遡ったじゃないですか。  俺にも吸わせてください。  布団に寝転がったまま煙草を咥えて火を点けた。煙を吸うと肺が拒否して咳き込んだ。体を横に向ける。男が背中を撫でながら俺の指から煙草を奪う。無理しないでくださいよ。  煙草一本で何分寿命縮むんでしたっけ、五分?  煙草吸ってる人間に向かって言わないでくださいよ。  何本吸ったら死ねるかな。  死にたいんですか。  愛するものが死んだ時には、自殺しなけあなりません。  何ですかそれ。  愛するものが死んだ時には、それより他に、方法がない。  だから何ですかそれ、怖いですよ。  春じゃないけどねえ、今。  怖い怖い。何の話か全然わからないです。  君は本を読んだ方が良いと思います。  窓から風が吹いて来た。生温い風だった。風に乗って貨物列車の走る音が耳に届いた。死にたければ線路に飛び込めば良いだけの話なのだ。煙草なんか吸う必要はない。  もうすぐお盆ですね、と男が煙を吐きながら言った。あの人帰って来てくれるんじゃないですか、と。  キュウリに乗ってですか。  キュウリというか、馬。  でもすぐにナスに乗って戻っちゃうんですよね。  ナスというか、牛です。  どうせ戻っちゃうなら帰って来なくていいです。  そんなもんですかねえ。  暑いのに鼻水が出てきた。腕を上げて顔を覆う。  すみません、ちょっとだけ泣きます。  ええ、どうぞ。  また失うのなら、もう欲しくはない。それなら俺は君のいない世界を何かの罰のように徘徊し続けたい。何を舐めても何を吸っても何を受け入れても君の代わりにはならないこの世界を。嫌い。全部嫌い。ひっくり返ったセミも家の前で潰れたカマドウマもそれを眺めるのに地面ばかり見ている自分も大嫌い。でもこの嫌悪も君がいなくなったことで得られたものなら全部自分に混ぜ込んでおかないとな。  風呂場の方から水の落ちる音がする。それを良いことに俺は声を上げて泣いた。
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