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あ……れ?
とてもいい案で、しくじると思ってなかった俺なのだが、首を縦にふることはなく、目を細めて俺を見たhoneyは、手に取ったスマホに視線を移し、そのまま口を閉じた。
「Hey, are you listening?」
「聞く意味がない。兄の日は6月6日、俺の誕生日は7月。大体、タメのお前とメシを食うならいつもと変わりはないだろ?」
「………‥」
俺が、honeyの誕生日を間違えたというまさかのミスに、反論の言葉が見つからず、言葉を失った俺にhoneyは攻めることもなく、飲み終わった缶を持ったまま台所で消えていく。
怒らせてしまったか? それとも飽きられてしまった? 追いかけて何かを言わなければいけないのに、身体も動かなければ言葉も出ない。
多分、こういうところが、honeyと俺の違いだろうな……
見事な完封負けにソファーの背へと身体を倒し、項垂れた俺の名前をhoneyが呼ぶ。
勿論、その声は聞こえていたけど、答える気力があるわけもなく、適当に返事をした俺の頭を手でくしゃくしゃし、背中に重さを感じても、振り返る気なんてない。
「なに? 拗ねてるのか? 俺の誕生日を間違えただけだろ?」
「It's a big problem for me」
honeyは大した事じゃないように言うけど、俺には大問題だろ? 愛しい人の誕生日を間違えるなんて……
後ろで溜息を吐いた音が聞こえ、スプリング音と共に、俺の機嫌を取っていたhoneyの気配が消えていくのがわかった。
「やめた、お前の機嫌より謙吾の機嫌を取る方がゆ……お! 謙吾くんからのメール、なんていいタイミング! なんだかんだ言ってもやっぱりおにーちゃんが好きだと見た」
俺にはBadだよ……最大のライバルに塩を送って自分の気分を落とすなんてウケる……なにより、honeyの声が弾んでるのが、更に気分を落とす事になってソファーの背もたれに預けていた身体は、だらりと腕を伸ばし寝転がった。
honeyが、brotherに電話をかけてるのだが、すぐ留守番に変わるのだろう、何度かかけても出ないことに諦めたのか、こっちに向かってきた足音のあと背中に大人一人分の重さが加わる。
「ぐわぁ! honey! 俺の腰が砕ける」
「お前だろ? 謙吾にメールしたの」
「honeyが寂しそうにしてたから…‥それで? お誘いの返事は?」
質問の答えはため息で返され、目線の先に置かれたスマホをみた。
brotherの返事は、『吉野さんとデート中だから邪魔すんじゃねー』の一文と、犬が怒ってる可愛いイラストのスタンプ。
「落ち込んだ?」
「いつの間にか……大人になったんだなって……弟離れの帰路に立たされた感じかな」
「ブラコン卒業? honeyが? できないだろ?」
突然、背中の重みがなくなり、うつ伏せていた身体を仰向けに変えたところで目を見開く。
こ、これはどういう状況なんだろう? 俺の背に座っていたhoneyは、今、俺の上に跨り、顔を近づけてくる。
「俺が……ブラコンを卒業できるかどうかは……お前次第だ……」
「う、wait! wait! も、もう酔ったのか? 缶ビール一杯だろ?」
「shut up」
近づけてきた唇が重なる。
これは……ノラなかったら失礼ってもんだよな……
滑り込ませてきた舌を絡め、深いキスを繰り返しながら、携帯をテーブルに置き、その手でhoneyの身体を撫でた。
俺次第? そんな事言って、明日には、ブラコンモード全開でおにーちゃんを始めるんだから俺って苦労性だよな……
END
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