小豆と抹茶パフェ

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 握られた手の温もり、見上げてくる瞳が、忘れようとしていた過去の恋心が、タイムスリップを起こしたかように蘇り、慌てて彼の手を振り解く。  心臓が壊れるぐらい脈を打ち、顔も赤くなる。 「極道のことやったら恵介やそこの奴らに聞いたらええやろ?」 「なんで? 國東がここの若頭とちゃうん?」  またこの言葉や……いつまでも代理が付く俺が、人におうたら絶対に言われ言葉。    西澤の輝いた目は少し影を落とし、首を傾げ、居づらくなった俺は、脱いだジャケットを近くに居た組員に投げ渡し、西澤をすり抜け、黒革のソファーに座り、今日一日使った身体をソファーの背に預け足を組む。 「俺は若頭やない、若頭代理や……残念やったな」  そう返事をすれば、西澤は諦めてくれると思ったが、自分で言って虚しくなり、テーブルに投げ捨ててあった経済新聞を開く。  無言になる部屋と背中に感じる視線が痛い。  バタンと閉まったドアの音で、西澤が出ていったことがわかる。  かっこ悪い所を見られた上に、もう会えなくなるやなんて、こんなことなら嘘でも若頭と言えばよかったとまで思えてきたが、後の祭りやな。   「ヤクザって経済新聞を読まはるんやね?」  聞こえるはずのない京都弁が聞こえ、ゆっくり新聞を閉じ、折りたたむと、見えてきたのはテーブルの上に座り、ニコリと笑う西澤瞬の姿。 「に、西澤? な、なんや! か、帰ったんと違うんか!」 「横に居らしてもらうまでは帰るわけあらへん」 「そやから俺は若頭やないんや!」 「代理でも!若頭ってついてはるやん! 今回のオーディションで主役を勝ち取りたい! せやから! 義理人情に熱い國東組で、國東の横で勉強させてください!」  テーブルから降りた西澤は、俺の足元で、お願いしますと土下座まで始めた。  こうなってしまっては、頷く他に解決策はないやろう……ただ、一ヶ月は……俺の理性がもたへん…… 「一週間や……それ以上は無理や」 「ゼロよりマシ……ほな、商談成立……改めてよろしゅうおねがいします」  俺の手をギュッと握り、願いが叶ったのか、満面の笑みを浮かべた西澤は、あの頃と同じ笑顔を見せ、俺の心を狂わせてくる。  これから一週間、西澤と再会してよみがえってきた恋心を隠し通すことができるかどうかわからんへんけど……  この1週間、突然降ってきた同居生活で、少しでも西澤にいいところを見せなければと、西澤の肩越しに見えた神棚に向かって、心の中で手を叩いた
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