レンタル実家

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「何で? 誰でも出られるって書いてるし。練習してるなら発表したくない?」  乙女の祈りの楽譜を麗奈が見つめた。 「緊張するね」 「大人でも緊張するんだ」 「めちゃくちゃ緊張するよ」 「応援するから! ね、出よう」 「分かった。頑張ってみる」 「やった! また菜絵さんに会えるね!」  そう言って残りのサラダを食べ、ごちそうさまでしたと手を合わせた。  キーボードを買いに行かないとだなんて、案外その気になっている自分がいた。 「じゃあ、またね!」 「うん。またね」  互いの連絡先を交換して、友達みたいな挨拶をした。    家の中に入ると不思議と自分の家のような匂いがした。テーブルにアンケート用紙を広げ、住み心地やアクセスのし易さなどを五段階で評価していく。その他に気付いたことや改善点、感想などを任意で書く欄がある。そこに可愛い友達が出来た事と、ピアノの発表会に出る事、それから、菊池に『一緒に発表会に出てみませんか』と、メッセージを書いた。  ピアノの鍵盤をポンと鳴らす。今の気持ちみたいに弾んでいた。 了
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