レンタル実家

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 夕暮れ時に路面電車を降りると、目的の宿泊施設に続く商店街の入り口が見えた。街灯がぽつりぽつりと点灯し、居酒屋の赤提灯にもぽっと明かりがついた。小規模な町を模したテーマパークの中にある宿泊施設に、今回モニターとして泊まることになっていた。広めの住宅展示場をイメージしていたが、どちらかというと、原寸大のジオラマに近い。園内にあるスーパーマーケットで夕飯の食材を買い、公園を散策したり街並みを眺めていると、イベント担当者の菊池が軽やかに走り寄って来た。 「宮原菜絵様、遅れて申し訳ございません」 「いえ。あちこち見て回っていましたから」 「今日と明日、お泊まり頂く『レンタル実家』にご案内致します。こちらです」  蔦が絡む洋館や古民家など、様々な住宅が並ぶ通りを歩いて行くと、数件先に目的の一軒家があった。 「子供の頃に住んでいた家によく似ています」  豪雪地帯には必須の風除室はないが、ストーブの煙突はある。 「それは良かったです」  新築の匂いがする玄関で靴を脱ぐと、靴箱の上にある水槽が目に入った。 「子供の頃、メダカの卵を孵化させて育てていました」
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