2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
友人
プルルルル…。プルルルル…。
『おう、どうした?』
「あのさ、今日暇?」
『まぁ暇っちゃ暇。明日仕事休みだし。』
「今日飲まない?」
『お、いいよ。飲もうぜ。場所はどうする?』
「いつものところでいいでしょ」
『お前なぁ、もうちょっと冒険してみようぜ。』
「いいのいいの!いつものところで!そこの揚げ出し豆腐美味しいんだから。」
『はいはいわかったよ。じゃあ17時に駅前でいいか?』
「うん。じゃ。」
『おう。』
プツリ。
電話を切った。信号を渡り、駅の改札を通り抜けた。ちょうど電車が着いていたのでそれに乗った。外の蒸し暑さが嘘のように車内はひんやりとしていて心地が良い。私は座席が空いていたので座った。ふうと息を吐き、スマホを開き画面をスワイプする。ニュースを眺める。
———スズキユウヤ、自殺の原因・過去のトラブルとの関係性は?
———スズキユウヤ、亡くなって1週間。ファンの悲しみの声は止まず。
———スズキユウヤさんが以前所属していたバンドのメンバーである斉田幸介さんにインタビュー。
こんな感じで連日、スズキユウヤの話で持ちきりだった。スズキユウヤは突然現れた"音楽界の新星"なんて言われていた人気アーティストだ。そんな彼が先日自殺したということで世間は大騒ぎ。そりゃそうだよね。まぁ私もスズキユウヤが所属してたバンドは好きだし、スズキユウヤも好きだったし、彼が亡くなったことは悲しいけど、なんだろう…。
…なんか、こうやって連日同じ話題だと飽きるよね。
まぁそんなこと今はどうでもいい。
窓の外をぼんやりと眺めながら電車に揺られる。ふとまたスマホに目をやり、ニュースを閉じてSNSを開いてみた。
『彼と旅行楽しかった♡』
『私たち、結婚します』
『子供が産まれました。』
『引っ越して一軒家買いました!』
こんな自己満足投稿ばっかり。開くんじゃなかった。わかっているのに開いてしまう。なんとなくやり始めたSNS。特に投稿することもなく、誰かとDMをすることもなく、職場の人、大学、高校時代の人となんとなく繋がってしまった結果がこれだ。まぁもう私も28歳。そろそろ結婚しないとヤバい歳らしい。
ちょっとセンチメンタルな気分になる。
『次は〜○○駅〜。○○駅〜。△△線お乗り換えのお客様は〜…。』
あ、次降りなきゃ。
プシューと電車のドアが開く。私は立ち上がって電車から降りた。ブワッと熱気が全身を駆け巡る。夏だから仕方ないが、車内と外の温度差にはいつになっても慣れない。
改札を通り抜けて待ち合わせ場所に行く。
時間は16:50。ちょうどいい。スマホを眺めつつ周りをキョロキョロ見回して奴を待った。
周りを見てみると、今日は休日だったせいか、家族連れや学生が多いと感じた。ガヤガヤと煩いし、暑い。
早く店に入って涼しい空気を感じたい。
16:58。やけに身長が高い男がこちらに向かって走ってきた。奴だ。
「おー、セーフセーフ。」
タッタッタッタッと私の前にやってきてニコリと笑う。眉毛は整っていて、綺麗な二重。鼻も高い。…無駄に顔が良いんだよな。
「走って髪のセットが崩れても顔が良いとは…。罪な奴だ…。」
私はじっと奴を睨んだ。
「はは、もっと褒めてもらって良いよ。」
「調子乗るな。」
「なんだよ、何かあったのかよ。」
「機嫌悪いから飲みたくなったの!」
「はいはい、なんでも聞きますよ。じゃあ早速行こうぜ。」
呆れたように奴は笑う。奴は小さい頃からの幼馴染の千葉智史だ。智史とは小・中・高と同じ学校だった。智史は顔が無駄に良かったのでずっとモテていたし、人当たりも良いし、いわゆる陽キャだっだ。
私とは別世界に住んでいた奴だったが、家族ぐるみで仲が良かったため今も関係が続いている。陽キャとはいえど、私も心を開けるほどコミュ力も高いし、友達として良い人だ。
大学時代は、時々連絡を取ったり、成人になったら飲みにも出かけた。最近はお互いに仕事のストレスが溜まるとこうやって飲みの約束をする。
私も愚痴るし、智史も愚痴る。こうやってストレスの捌け口があることは良いことだと思う。男の人と話すことは苦手だけど智史とは普通に話せる。誰にでもこうやって普通に接することができたら良いのにな。
「どーしたんだよ。」
隣で歩く智史が私に話しかける。
「別に。」
「こりゃ相当溜まってるな。」
どこか楽しそうに智史はニヤリと笑う。
「そーよ。私にだって色々あるんだから。」
智史の脇腹を小突く。
「へいへい、ま、今日は飲もうぜ。」
「もちろん。」
最初のコメントを投稿しよう!