灯火

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実力のあるものが勝つ世界 数学による因果律によって支配される世界 化学が世の中を形成する 近代社会 人間の行動、生物の行動はシステム化され理路整然としている 必要のみが美学であると定義される 「完璧」になることが何よりも価値がある それは不可能なんだって気づいた時にはもう遅かった 子どもの頃に培うべきだった何かが欠如してしまった私 今更気づいても間に合わない 整うことを美学としてきたものにとって自然は憧れだった 不可解な何かが、心を虚無から救う 空っぽの他人に侵食しない、生だけが社会の中で一人歩きして周囲には何もない孤独 その孤独を望んだのは自分自身なんだ 見えないバリアで拒絶していたのは私だった 気づいた時にはもう遅かった 自然は美しいという価値観ではない 自然に憧れているのだ 自分を一部とするのではなく、自分が自分である世界 やわらかく温かく優しい 生に触れてほしい 私の体の中に入ってきてほしい あらゆるものを心の中から拒んでいたけれど それは水のように気づかない間に入ってくるんだろう 多分もうそれは私の中にある 表面に投影できないだけなんだ 誰かに教えたい 話したいような興奮 理性のない興奮 感情に支配されるがままに動ける興奮 甘く 苦く 酸っぱく 塩っぽい その中に僕がいる なんと奇跡なことなんだろう でももうそろそろ行かなくちゃ またいつか、帰りたい場所に戻ってこれるようにしなきゃ 気づいた時にはもう遅かったんだ 心のシャッターを閉めて、思い出に灯火をつけて振り返らない 扉が閉まる その時に思った 君の名は希望だ。
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