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「頭部をですか。まるで中世に吸血鬼を恐れていた人々のような残酷な埋葬の仕方ですね。体をバラバラにしたり、杭を打ったり、口に石を詰めたりして、甦るのを防いだと書物で見たことがありますが。頭部を落としたということは、呪術師が生き返る存在だと彼らは思っていたわけですよね」
勇理はそう言いながら、何度も首のあたりをさすっている。
「あのあたりに呪術師が多いという話はしたと思うが、私の滞在していた集落は、特に強力な呪術を使う呪術師がいる地域だと噂され恐れられていた場所なんだよ」
「つまり、彼らは呪術師の力に怯えていたからこそ、甦るのを阻止したというわけですか。たしか曽根田君青の友人だったタイの呪術師も、妻の死をきっかけに悪い霊に取りつかれた代々悪霊に取りつかれる家系の呪術師だと疑いをかけられて、殺されたんだったと記憶していますが」
「同じようなものだろうね。私が滞在する数か月前、他県に住む権力者とその娘が村落に滞在していたらしいんだが、娘が突然死したそうなんだ。それで、権力者お抱えの託宣師が、彼が邪術を使う悪い呪術師で娘を呪い殺したと言ったらしい」
「それで、呪術師は命を狙われるようになったのですね。医療が発達した現代でも、中世と同じような迷信が消えないのだから、人間は不死を恐れ、同時に憧れているのかもしれませんね」
勇理は理解に苦しむというようにため息をついた。
「ところで、マスターはどうやって棺の外に出られたのですか。土の中に埋められたのであれば、簡単には出られるものではないかと思うのですが」
「勇理くんには笑われるかもしれないがね、呪術師が救って欲しいかと尋ねてきたんだよ」
勇理は玄河の目を見たままわずかに首を傾げてから、眉を寄せた。
「ですが、そのときにはすでに呪術師は亡くなっていたのでは……」
「信じ難いだろうね。死線をさまよっている人間に脳が見せる幻覚だと言われれば否定はできない。だけど、勇理くんは私よりも遥かに壮大な光景を見たんじゃなかったっけ。死に面してはいなかったのに」
「ええ、まあ……。何らかの要因が重なって、集団幻覚を見たとも言えなくはないですが」
煮え切らない返事をする勇理を見て、玄河は満足そうに微笑んだ。
「不思議な体験をしてもなお、現象に説明がつくんじゃないかと考える勇理くんに話そうと思ったのはね、私自身がいまだ自分の感覚を信じられていないからなんだよ。私の話を聞いたあと、君がどう思うか聞かせてくれるかな」
「それは構いませんが……」
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