猫が歩いた道に落ちている幸せ

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 夏への準備運動をしはじめた太陽は、これでもかと僕のひたいに汗粒を浮かせていた。正直なところ、外で探しものをするには、かなり暑い。  犬上さんみたいに帽子を被ったら、少しはこの暑さもマシになるだろうか。  そんなことを考えていると、 「ふうー、あっついねー」  僕の前を歩く犬上さんがつぶやき、羽織っているカーディガンを脱いだ。白いブラウス姿になり、体のラインが露わになる。  汗ばんで今にも透けそうな白さに、あわてる僕。そして紳士ぶって視線をそらす。一瞬だけ。  犬上さんはカーディガンを腰に巻くと、振り向いた。赤茶色の長い髪がふわりと揺れる。 「はい、皆藤くん。水分とらないと、熱中症で倒れちゃうよ」  そう言って、プラスチックの水筒を手渡してきた。 「あ、ありがと」  どぎまぎしながら受けとる。  口をつけると、甘酸っぱい味が舌に広がった。 「レモン水だよ。疲れた体に効くんだ」  にこりと笑う犬上さん。
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