猫が歩いた道に落ちている幸せ

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「そうなんだ」  おもしろみのない返答をし、僕はふと気づく。  これって、間接キスなんじゃ……。犬上さんにプラスチックの水筒に返すと、気温とは違う暑さが僕を襲った。  そんな僕の心境も知らず、犬上さんは足もとにある、猫の足あとを一つ一つ確認していく。  通称『猫が歩いた道』と呼ばれる、遊歩道。設計者の遊び心なのだろう。その通称が示すとおり、石畳の道には猫の足あとを模したマークが、いくつも描かれている。 「んー。ないねー」  犬上さんはつぶやき、肩にかけたボストンバッグをかけ直す。ガチャガチャと音が鳴る。中でテニスラケットが動いたのだろう。 「やっぱり、ただの噂なんじゃないかな」 「そうなのかなー。でも、ありそうな気がするんだよねー」  犬上さんは根気強く探す気らしい。  一方の僕は、何百個もある猫の足あとにうんざりしていた。  この猫の足あとのマークの中に、ハート形が紛れている。それを発見すれば、幸せになれる。こんな噂が、僕らの学校でささやかれだした。
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