猫が歩いた道に落ちている幸せ

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 この噂を偶然耳にした犬上さんは、知的好奇心というアクセルを全開にし、ここにきている。部活をサボって。  そして帰宅途中だった僕は彼女に誘われるがまま、この遊歩道に連れてこられた。 「犬上さん」 「ん?」 「犬上さんって、不幸せなの?」  僕の言葉に、犬上さんはピタリと動きをとめる。 「ううん。けど、幸せ、でもないかな」  ぎこちない笑みを浮かべ、犬上さんは大きく伸びをする。  犬上さんは、女子テニス部のエースだ。大会に出場すれば、必ずと言っていいほど、上位に食いこむ。部活に顔を出せば、羨望の的であろう。 「人気者じゃないか」  僕はちょっぴり皮肉をこめた。 「嫉妬もあるから」  犬上さんはかぶりを振った。  人気者というのは、かくして妬まれるものでもある。僕にも覚えがある。 「なんかごめん」 「いいよ。だいじょうぶ。それより、皆藤くんは、もうテニスしないの?」
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