猫が歩いた道に落ちている幸せ

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 いきなりの質問に、僕は少しのあいだ口をつぐんでしまった。  今は帰宅部だけど、一年前の僕はテニス部だった。  テニス部にかぎらず、どこの運動部もそうだけど、男子と女子に分かれている。でも、コートの数が足りないものだから、男子と女子で入り混じってよく練習している。だから、僕と犬上さんもよく一緒にラリーやサーブの打ちあいをしていた。 「あー、うん。なんだかあきちゃったから」  嘘をついた。あきてなんかいない。今でもテニスは好きだ。  犬上さんは、入部してすぐにテニスの腕をメキメキと上達させていった。彼女は夢中になったら、とことん突き進むタイプなのかもしれない。  一方の僕はちっともうまくならなかった。男子と女子の違いはあれど、同期ということもあり、僕らはよく比較された。  犬上はあんなに上手なのに……。周りの声が痛かった。苦痛でしかなかった。  そう。部活をやめたのは、犬上さんに対する嫉妬、それと周りの評価から逃げるため。
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