猫が歩いた道に落ちている幸せ

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 でも、そんなことを犬上さんに言えるわけがなかった。傷ついてしまう。彼女はなにも悪くないのだから。僕が勝手にやめた。それだけでしかない。 「そっか」  犬上さんはそれ以上なにも言わず、ハート形の猫の足あとを探すのを再開する。僕も言葉をつづけず、同じように地面に視線を落とした。  花壇に咲くパンジーには目もくれず、探しつづけていると、犬上さんが大きな声をあげた。 「あった!」  犬上さんが瞳をきらきらさせ、僕を手招きする。 「これだよね?」  しゃがんで、猫の足あとを指さす犬上さん。  肉球マークのすべてがハートの形になっている。 「うん。これだと思う」  僕らはしばらく、それを眺めた。 「わたしたち、幸せになれるかな」 「え?」  びっくりして妙な声がでてしまった。
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