猫が歩いた道に落ちている幸せ

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「あ、え、あ。違う違う。そういう意味じゃなくて、わたしと皆藤くんが、それぞれ幸せになれるかなって、意味!」  犬上さんは両手を広げ、顔の前でぶんぶんと振った。その頬は少しばかり朱色に染まっている。 「わかってるよ」  平静を装いつつ、僕はふと気になって聞いた。 「犬上さんが求める幸せって、どんなの?」  僕の顔を、犬上さんはチラと見、懐かしむように空をあおいだ。 「試合に勝って賞賛されるのが幸せって、人もいると思う。けど、わたしはそうじゃない。みんなとバカ話をしながら、ボールを飛ばしあっていた放課後が、わたしにとっての幸せ」  確かに、あのころの僕らは幸せだったのかもしれない。今となっては、もう戻れないだろうけど。 「ねえ。テニスしようよ。昔みたいにさ」  なにを思ったのか、犬上さんが突然ぐいっと僕の腕を引っ張ってくる。彼女が指した方向には、広場があった。 「いきなりだね」 「いいじゃん。ラケットも貸すから。それに、皆藤くんも体を動かさないと、健康によくないよ」
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