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『ただいま』
久しぶりに口にしてみたんだ。
何年ぶりだろう。
でもマンションに帰宅した俺を迎えてくれるのは、今夜も暗い部屋に漂うカーテン越しの街の喧騒と月の明かりだけだ。
一人暮らしの我が居城は、余りにも小さく頼りない。
そしてネクタイをソファに放り投げて座り込んだら、目には映るが観てはいないテレビを垂れ流す。
休んでいるのか時間を無駄にしているだけなのか分からない。俺はただぼんやりするために生まれたのかもしれない、なんて思ったりしながらスマホを開いてまたぼんやり。
毎日が同じ繰り返し。
今日も世界中で色んな事が起きているけど、俺には特に何もない。
ネットの情報を貪って、眠くなったら寝るだけだ。
でも、天涯孤独の天涯とは空の果ての事。
こんな俺にも朝が来れば、青空は広がっている。空の果ては眩しく輝いている。
ガラじゃないけど、しゃーない頑張るかって気分になれるんだ。
何かいいことが起こりそうな気分になれるんだ。
例えそれが、借り物の青空であったとしても。
《完》
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