28人が本棚に入れています
本棚に追加
『ただいま』と言わなくなって何年経つだろう。
最後に口にしたのはいつだったかな。
昔は、男は外に出れば七人の敵がいる、なんて言ったらしい。
社会は戦場、仕事は戦って所か。
でも戦い疲れてマンションに帰宅した俺を迎えてくれるのは、今夜も暗い部屋に漂うカーテン越しの街の喧騒と月の明かりだけだ。
ふと気付いてしまえば我が居城は、余りにも小さく頼りない。何だこりゃ。
だが、一人暮らしには贅沢過ぎる空間である事も間違いないんだよな。
そしてネクタイをソファに放り投げて座り込んだら、目には映るが観てはいないテレビを垂れ流す。
休んでいるのか時間を無駄にしているだけなのか分からない。俺はただぼんやりするために生まれたのかもしれない、なんて思ったりしながらスマホを開いてまたぼんやり。
その後はそのまま寝っ転がるのも、風呂にするのもビールを開けるのも飯を食うのも自由。何て贅沢な。
もちろん恋人がいれば、これに敵う贅沢はないのだけど。
俺は一人でいるのが性に合ってる様な気がする。
早くに親を亡くした。兄弟もない。
親戚はどんどん疎遠になり、盆も正月も仕事仕事で過ぎて、気が付けば三十代半ば。
天涯孤独、という言葉は響きだけはカッコいいけど、人付き合いが苦手で面倒なだけさ。
休みの日は他人と会話をする事もほとんどない。
例えば今ここで死んだとしたら、発見されるのは何日後になるだろう。
でも、こんな俺だけど。
一人で生きてる、なんて思っちゃいないさ。
最初のコメントを投稿しよう!