レンタルワールド

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『ただいま』と言わなくなって何年経つだろう。 最後に口にしたのはいつだったかな。 昔は、男は外に出れば七人の敵がいる、なんて言ったらしい。 社会は戦場、仕事は(いくさ)って所か。 でも戦い疲れてマンションに帰宅した俺を迎えてくれるのは、今夜も暗い部屋に漂うカーテン越しの街の喧騒と月の明かりだけだ。 ふと気付いてしまえば我が居城は、余りにも小さく頼りない。何だこりゃ。 だが、一人暮らしには贅沢過ぎる空間である事も間違いないんだよな。 そしてネクタイをソファに放り投げて座り込んだら、目には映るが観てはいないテレビを垂れ流す。 休んでいるのか時間を無駄にしているだけなのか分からない。俺はただぼんやりするために生まれたのかもしれない、なんて思ったりしながらスマホを開いてまたぼんやり。 その後はそのまま寝っ転がるのも、風呂にするのもビールを開けるのも飯を食うのも自由。何て贅沢な。 もちろん恋人がいれば、これに敵う贅沢はないのだけど。 俺は一人でいるのが性に合ってる様な気がする。 早くに親を亡くした。兄弟もない。 親戚はどんどん疎遠になり、盆も正月も仕事仕事で過ぎて、気が付けば三十代半ば。 天涯孤独、という言葉は響きだけはカッコいいけど、人付き合いが苦手で面倒なだけさ。 休みの日は他人と会話をする事もほとんどない。 例えば今ここで死んだとしたら、発見されるのは何日後になるだろう。 でも、こんな俺だけど。 一人で生きてる、なんて思っちゃいないさ。
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