傲慢のエグモント

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 ***  ああ、最初からこうすればよかったのだ。  これで、王様の望み通り雨音は響かなくなり、同時に誰も処刑される心配がなくなる。王様に盛った睡眠薬と、医者に借りた手術用具を片づけながらコートは思う。これも一つの心得として、医療技術をハグウェルからばっちり学んでおいて本当に良かったと思う。まさかこんな使い方をする羽目になるとは思ってもみなかったが。 「!」  りりりりり、と内線の電話が入る。コートは道具を引出に入れると、そのまま金色の受話器を取った。向こうから聞こえてきたのは、くぐもった声。エグモント様だ、とすぐに分かった。 「―――!――――、―――――!!」  ああ、本当に何を言っているかさっぱりわからない。唇の端が持ち上がるのを感じながら、コートはきっぱりと告げたのだった。 「申しわけありませんが王様、何を仰っているのか私にはわかりかねます」  お望み通り、王様の耳は潰した。これでもう、雨音も一切聞こえなくなり、大好きな趣味に集中できるはず。自分はきちんと命令をこなしてあげたではないか。  まあ、一緒に喉も潰したので、王様は言いたいことを伝える術もなくなってしまったわけだが。きちんと勉強をしなかったこの王様が、文字さえ書けないことはみんなが知っていることである。 ――これで、誰も理不尽な命令を下されなくなる。あとは、私達にお任せあれ……この国の全てを。  ざまあみろ。  心の中で盛大に笑って、コートは叩きつけるように受話器を切ったのだった。
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