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そもそも、アータ王国は雨が非常に多いことで有名な国である。
短い乾季の時期を除き、一年中の殆どの時期で雨が降り続くのが当たり前。その恵みの雨のおかげでこの国は水資源も豊富だし、日照時間が少なくても育つような美味しい果物や野菜の名産地としても知られているのである。
王様も、この雨の音は幼い頃から慣れ親しんだものであるはずだった。ただ、大きくなってゲームやマンガにハマったことで、大きな雨音が妙に気になる質になってしまったらしい。最近はそういった娯楽に勤しんでいない時間でも、それこそ夜であっても“雨音が煩くて眠れない!”とコートのところにわざわざ苦情の内線電話をかけてくるほどである。
この雨を止めて、煩い雨音をどうにかしろ。それが王様の命令だった。だが。
「そんなこと、無茶に決まってる」
コートは頭を抱えた。今の自分達の科学技術では、到底天気を操作する方法などない。この国に降り続く雨を、どうにかよその国へあげる、なんてことできるはずもないのだ。
そもそもそういう技術があったところで、この国で雨が降らなくなってしまったら生活に困る人が大量に出ることになる。王様の今回の命令は、最初から完全に詰んでいると言っても過言ではないものだった。
「しかしコート様。じゃあ“我々にそんなことできません”って言います?」
何年も自分に付き従ってくれている部下の青年も、最近は王様に振り回され続けてかなりげっそりしているようだった。頬が明らかにこけて痩せている様子。胃薬も欠かせないと言っていたので、相当追い詰められているのは間違いない。
「そうしたら、俺達全員、首が胴体から泣き別れして終わりますが」
「そうなんだよなあ。そして、私達がいなくなったらこの国は終わりだ。今のエグモント様に、この国を動かしていく力はない。そしてこの国がこんな滅茶苦茶な状況だと知られてみろ、同盟の国々はみんな離れていくだろうし、この国の豊かな資源を狙う諸外国はこれ幸いと攻め込んでくるに決まっている。言っちゃなんだが、私達の命がそのまま国民全員の命に直結してしまっている状態だ。何がなんでも処刑されるわけにはいかん」
「ですよねー……」
雨を止めることは、不可能。
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