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ならば、雨音だけでもどうにかならないだろうか。王様は雨の湿度が嫌なのではなく、あくまで雨音が煩いのが嫌だと言っている。その音が、王様の部屋で聞こえなくなれば万々歳であるはずだ。
「とすれば、一番最初に試すのは……」
コートははじめに、この国で最も防音性の高いイヤーマフを作れるという企業を当たった。そして、最高級のイヤーマフを作らせると、王様にそれを献上することにしたのだ。
「これを見につければ、煩い雨音も聞こえなくなりますよ」
これで解決すれば万々歳。が、そうは問屋が卸さない。王様はコートが差し出したイヤーマフを床に叩きつけて激怒した。
「馬鹿もんめ!こんなものをつけていたら、頭が気になってしょうがないではないか。そもそも寝ている時までこれとつけて寝ろというのか?寝返りも打てんぞ、却下だ却下!そんなことより、この雨を止めてしまえばいい。それで万事解決ではないか!」
「雨を止めることは、現在の世界の科学技術では不可能なのです。ですので、陛下が雨音を気にしなくて済むような方法を探しているところでございます」
「ふん、役立たずめ!まあいい、ならばその雨音を気にしなくて済むというやり方をどうにかして探せ。一刻も早くだ。でないと、お前達の首を全員ちょん切った上、槍に刺して庭に並べてさらし者にしてやるからな!いいか、ボクはやると言ったらやるんだ、脅しじゃないんだぞ!」
言われるまでもなく脅しではないことはわかっていた。過去にも王様は、自分の嫌いな執事を一人首にした挙句に処刑して、自分の手で生体解剖させろと無茶苦茶なことを言ってきて実行している。あの時ばかりは、王様がさっさとピストルで執事を撃ち殺してしまったので誰も止めようがなかったのだ。
コートは泣きたい気持ちで、壊れてしまったイヤーマフを拾ったのだった。
――せっかく、最高の職人に作ってもらったのに。王様は、そういった人の苦労を思いやるような心は……欠片も持ち合わせていらっしゃらないというのか。
これを作るために、大手企業に掛け合い、最高の職人のスケジュールを無理に開けて貰ってどうにかして作ってもらったのに。その苦労も、この数秒であっさりと粉々になってしまった。
きっとこんな気持ちも、王様には全く想像さえできないことなのだろう。コートは悲しくなって、王様の部屋を出て行ったのだった。
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