傲慢のエグモント

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 ***  元々身分の低い孤児であったコートを見出し、育ててくれたのは前の執政官のハグウェルだった。侯爵家の人間でありながら奢らない性格のハグウェルは薄汚い自分の体を洗い、自分を立派な跡継ぎとして育ててくれたのである。その折り、先王とそのお妃様には大変世話になったのだった。二人とも、元下層階級の子供だと自分を嘲ったりはしなかった。他の貴族出身の者達と同様、正しく人間として扱ってくれたのである。  ハグウェルが亡くなり、その跡継ぎとして王国に仕えるようになってからも。この王様とお妃様が愛する国を守りたい、その一心でコートh仕え続けてきたのだった。  今思うと、お二人が生きている時に進言するべきだったのだろう。老いてからやっと生まれた子供であるエグモントに対し、あまりにも甘やかしが過ぎると。それでは、この国を守る立派な王にはなれない。勉強が嫌だと駄々をこねたらその通りにするのではなく、きちんと勉強の必要性を説いてこの国の歴史や知識について学ばせるべきで。それ以上に、自分以外の人間を愛する道徳心を、丁寧に丁寧に育ていくべきであったと。 ――何故、あれほどの賢王から、あのような横暴で傲慢な息子が生まれてしまったのか。  雨音が煩いから雨を止めろ。それが無理難題だと気づかないほど、莫迦で愚かな王へと育ってしまった。自分達には、彼を止める術はないのだろうか。 ――とにかく、願いを聞き届けなければ。私も部下も、処刑されるわけにはいかぬ……!  イヤーマフが駄目ならば、次は王様の部屋をしっかり防音できるようにしてしまうしかない。現在の王様の寝室は、父である先王の寝室であった場所である。先王は雨の音が好きな人で、よく外の音が聞こえるようにわざと窓を大きくし、壁を薄くした部屋を作っていたのだ。それを、悲しいことながら取り壊し、がっつりと防音できるような壁に取り換える工事を行う。現状、これが唯一の手段だろう。  だが、王様はこの方法でさえ嫌だと言ってきたのだ。 「ふざけるな!工事なんかしたら、それまでボクがいられる部屋がなくなってしまうではないか!嫌だ嫌だ、そんなのは絶対に嫌だぞ!」 「でしたら、外側から部屋を覆う形での工事はどうでしょう?壁を取り壊さないタイプの工事にすれば、そのままお過ごしになることも……」 「ふざけるな!工事なんかしてる部屋にいたら雨音どころではなく煩いではないか!そうかお前、ボクの睡眠妨害をして疲れさせて、ボクを暗殺しようってハラだな?ボクを殺して、この国を乗っ取ろうとしてるんだろう!?許さないぞ、お前みたいなやつは粛清してやる!」 「ま、待ってください王様!王様――!!」  コートは、何もすることができなかった。工事について王様について提言しに行ったコートの大切な部下は、全身を蜂の巣にされて無惨な姿と化してしまったのだから。まだたった、二十四歳の青年だった。その部下の死体を足蹴にしながら、王様はへらへらと笑って言ったのである。 「ふん、今回のは見せしめだ。次、ふざけた提案をしたらお前も殺すからな?」  その瞬間。  コートの中で何かが、ぶちりと音を立てて切れたのである。 ――そんなに、雨音が煩いってなら。  心臓の奥から、ふつふつと黒い炎が沸き上がってくる。 ――お望み通り、もう二度と気にならないようにしてやるよ。
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