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キスしないって
コンコン
『ヒロ…どうした?』
「え…オーナー…俺…」
『いつもなら、ベランダで一服…だろ?』
「ああ…そうですね、ぼぉっとしてました」
『下で、飲むか?』
「ええ…」
「ね、オーナー…最後の客…」
『ああ…気に入ったのか?』
「わからない…【俺が愛してやまない恋人として抱いてくれ】って…」
『へぇ…んで?』
「本物だと錯覚するぐらい、に…真剣に抱いた。ナチって呼びながらイった…」
『その客な…帰ってく時、お前にまた会いたいって言ってた。店のルールでは【はじめて】だけだからって…プライベートならお互いに任せる…と言っといた』
「……」
『連絡先、いる?』
俺は黙って首を振った。
『一年くらい前からかな…店の常連だよ、いつもひとりで飲んでる。声かけられてるけど全部断ってるんだよな、ゲイじゃないのかな…っても思ったけど…』
「もっと欲しいって…初めて思った。止まらなくなりそうで怖かった。初めて、客と…キスした」
『あー…それだよ』
「?」
『いや、いいんだ。連絡先欲しくなったら言えよ?』
「ん…」
『お前…今夜はヤケに色っぽいな…』
「はは…」
それからも淡々と仕事をこなす。
いろんな理由を持った客のはじめてを喰らう。
顔も見れない男にはじめてを喰われて後悔はないのだろうか?
ふと、あの客を思い出す。
まただ…ナチを思い出すと心が震えるんだ。
何だかわからないこの感情…
好きな人とは上手くいったのだろうか…
その人とは、痛みもなく気持ち良く繋がれているのだろうか?
チクリ…
胸が痛い…
ナチの二回目が…こんなに気になるなんてな…
今夜はオフで…ひとりでいたくなくて、NORTHに顔を出す事にした。
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