episode 06 佳耶【土曜日】

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「できたみたいなの」  膳の用意されたダイニングテーブルで、席に着いた正隆の真向かいに座るなり妻が口を開く。 「できたって……何が?」  今日は魚の他にメインのおかずでも出てくるのかと、正隆は思わずキッチンを見やる。  きれいに片付いたそこからは当然、何も出てこない。首を傾げながら味噌汁をすする正隆を真っ直ぐに見据え、妻は告げた。 「子ども」  汁をかき回す箸が止まる。 「え?」 「できたのよ、子どもが」  恐る恐る見上げた妻の口元は、見事に口角が上がっていた。 「そうなんだ……」  入籍から四年目に入る頃、妻は一度だけ身ごもった。当然、正隆は喜んだ。けれど━━。 『堕胎したいの』  当時、妻の決意は固く。  話し合いもままならず、正隆が折れる形で中絶をした。  あの時の胎児が生きていたならば、ランドセルを背負う年頃になっていただろう。  それ以来、妻には一度も妊娠の兆候などなかったのに。 「それは……おめでとう」 「なあに、他人事みたい」  確かに、他人事ではない。けれど、何と答えることが妻にとっての正解なのだろう。  考えあぐねながら噛み締めた卵焼きは、そんなに甘くない気がした。
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