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「やはり、『良くない気』が滞っていますね。さあ、横になって」
挨拶もそこそこに、泉水は正隆を施術ベッドへと促した。追いはぎのようにスーツの上着を脱がせることも、忘れない。
ごくありふれたファミリー向けマンションの一室は、セラピストを名乗る彼女の住まいであり職場でもある。言われるがままに霊安室の遺体よろしく、正隆は白いシーツの上で仰向けになった。
「今朝は頭が重くて……」
目を閉じる代わりに開いた唇は、華奢な人差し指によって塞がれ。沈黙の合図を受け入れた正隆の額へ掌をかざした泉水は、怪しげな呪文を唱え始めた。
「いいわよ、目を開けて」
手かざしの時間は、正味五分程度だったと思う。けれど、体感は三十分……いや、それ以上に感じられるほど、時間の経過が遅かった。
「どう?」
どうもこうも。正直に言うと、何の変化もない。ただじっとしているだけの五分間は、こんなにも辛いのか……と感じただけだ。
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