episode 03 泉水【水曜日】

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「うん、調子が戻ったような気がするし……出社するわ」  おもむろに体を起こし、正隆はハンガーに掛けてあるネクタイとジャケットを掴む。施術の間はポーカーフェイスだった泉水は、眉尻を下げて初めて感情を露にした。 「え、もう行っちゃうの?」 ━━きた。 「もう少し、ゆっくりしていったら?」 ━━きた、きた。 「新しいフレーバーのハーブを仕入れたの。せめて、お茶だけでも飲んでいって」  素っ気なかった声色が、懇願のトーンに変わる。 「ありがとう、いただくよ」  泣き顔になりかけた表情が一変。口角を上げた泉水は、ダイニングを指す。 「じゃあ、座って……」 「その前に……」  促されるふりをして腕を掴み、そのまま強く抱き寄せた。形勢逆転。組み敷かれた泉水から、切なげな吐息が漏れ始める。 ━━どっが、セラピストだか。  我ながら悪趣味だという自覚はある。  孤独を好むふりをした泉水が寂しさの感情を(あらわ)にしたとき、正隆は例えようもなく(たかぶ)るのだ。
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