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「うん、調子が戻ったような気がするし……出社するわ」
おもむろに体を起こし、正隆はハンガーに掛けてあるネクタイとジャケットを掴む。施術の間はポーカーフェイスだった泉水は、眉尻を下げて初めて感情を露にした。
「え、もう行っちゃうの?」
━━きた。
「もう少し、ゆっくりしていったら?」
━━きた、きた。
「新しいフレーバーのハーブを仕入れたの。せめて、お茶だけでも飲んでいって」
素っ気なかった声色が、懇願のトーンに変わる。
「ありがとう、いただくよ」
泣き顔になりかけた表情が一変。口角を上げた泉水は、ダイニングを指す。
「じゃあ、座って……」
「その前に……」
促されるふりをして腕を掴み、そのまま強く抱き寄せた。形勢逆転。組み敷かれた泉水から、切なげな吐息が漏れ始める。
━━どっが、セラピストだか。
我ながら悪趣味だという自覚はある。
孤独を好むふりをした泉水が寂しさの感情を露にしたとき、正隆は例えようもなく昂るのだ。
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