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菜緒の問いに淳人は一瞬だけ戸惑ったような表情を見せたが、すぐにいつものクールな顔に戻った。
「……別にいいよ。でも……」
そう言って淳人は黙り込む。そんな様子に菜緒は不安を覚えたが、淳人の次の言葉を待つことにした。淳人は少し考えた後で心配そうな表情をして言葉を続ける。
「間宮さんに迷惑かかるかもよ」
「え、なんで?」
淳人からの意外な言葉に菜緒はビックリして気の抜けた声を出してしまった。そんな自分の声のトーンに菜緒は恥ずかしくなったが、淳人はそんなことを気にする様子はない。
「ほら、俺浮いてるし。色々言われてるから。……俺と話してると間宮さんまで変なこと言われたりするかもしれないよ」
色々言われて嫌な思いをしているのは淳人自身のはずなのに、こちらの心配をしてくれている淳人の優しさがありがたいと感じるの同時に心が痛んだ。菜緒はどんな風に返事をしたらいいのか迷い、なかなか言葉を出せずにいると、淳人はちょっぴり悲しそうな顔をしながら、さらに言葉を続けた。
「まあ、そういう風にしてるのは俺自身のせいだから、俺が色々言われるのは構わないんだけど、俺に話しかけることで間宮さんが嫌な思い……」
「関係ないよ!」
菜緒は淳人の言葉を遮った。色々な思いが交錯して菜緒は思わず声が大きくなってしまった。菜緒がそんなに大きな声を出すイメージを持っていなかったので、淳人は驚いて言葉を続けられなかった。
「わたしが蓮見くんと話したいの。蓮見くんと仲良くなりたいって思ってるんだから、周りは関係ないよ。」
そう言って菜緒はまっすぐに淳人の方を見た。発せられた言葉から菜緒のまっすぐで優しい気持ちが感じられて淳人は嬉しくなった。
「……ありがとう」
淳人も菜緒の方をまっすぐに見つめる。菜緒は少し感情的になってしまったなと我に返った。
「なんか、ごめんね。ちょっと感情的になっちゃって……声も大きかったし……」
そう言いながら、菜緒は気まずそうに下を向いた。そんな菜緒を見て淳人は優しく言葉をかける。
「嬉しかったよ」
その言葉を聞いて、菜緒は顔を上げた。その瞬間、菜緒の目に映ったのは優しく微笑む淳人の顔だった。その笑顔を見て、菜緒は自分の胸が少し高鳴ったのを感じた。そして、その表情は中1の夏に出会った笑顔とピッタリと重なった気がした。
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