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第5話 交わした一言
翌日、菜緒は淳人との会話を思い出しながら学校に向かっていた。淳人と少しだけ距離が縮まったような気がしたことや自分の記憶にほぼ間違いがなかったことの嬉しさと少し図々しかったかなという反省の気持ちが入り混じっていた。そして、話しかけてもいいかと自分から言ったのはいいが何を話題にしようかと悩んでいたら、あっという間に学校に着いてしまった。すると、タイミングが良いのか悪いのか靴箱にいる淳人の姿が見えた。
まずは挨拶しよう、と菜緒が声を掛けようとした瞬間、淳人が菜緒に気がつき2人の目がバッチリあった。そのことに驚いた菜緒が一瞬言葉を発するのをためらっていると、淳人が口を開く。
「……おはよ。」
淳人はいつもと同じように表情を変えずに菜緒に挨拶をした。
「……あ。おはよ。」
菜緒はハッとして挨拶を返した。その返事を聞くと、笑顔を見せることなく淳人はスタスタと教室の方に歩いていった。
昨日のような笑顔はなかったが、淳人の方から挨拶をしてくれたことが嬉しくて菜緒は思わず頬を緩める。そして、自分も教室に向かおうとしたとき、後ろから勢いよく声を掛けられた。
「ちょっと!」
「え?」
菜緒が慌てて振り向くとそこには驚いた表情をしている愛華がいた。
「おはよう、愛華。どうしたの?」
「どうしたのじゃなくて!今、蓮見くんから菜緒に挨拶してなかった?」
愛華はまるで珍しい生き物を発見したかのように興奮している。菜緒はその勢いに押されつつ「うん、まあ」と答えた。
「わたしなんか隣の席なのに未だにあっちから言ってもらったことないよ!?」
「まあまあ、ちょっと落ち着いて」
菜緒は愛華をなだめて教室へ向かいながら昨日のことを話した。教室に着いても話が途中だったので、愛華はそのまま菜緒の席の方へとついていった。
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