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「蓮見くん、知ってたんだね。自分がどんな風に言われてるかってこと」
菜緒の席からは離れているが、すでに教室には淳人がいるため愛華は念のため小声で話をした。菜緒も愛華に合わせて声のトーンを落とす。
「うん。そうみたい。で、それを気にしてわたしの方を気遣ってくれて……」
「その話聞く限り、菜緒の言う通り蓮見くんは冷たい人じゃなさそうだね」
「そうだと思う。何か理由があって学校ではああいう態度なんだと思う」
愛華の言葉に菜緒は頷きながら、そう言葉を続けた。愛華は少し考え込んだ後で、より声を潜めて話し始めた。
「……これも噂だからどこまで本当かわからないんだけど、中学の時の野球部で何かあったらしいんだよね」
「野球部で?」
「うん。……あくまでも噂だけどね、蓮見くんが野球部を見捨てたって……」
「え?」
「噂だよ、噂。本当かも分からないし尾ひれがついて話が広がってる可能性あるし……」
考え込んだ表情を見せる菜緒を見て愛華は慌てる。
「ごめんね、変なこと言って……もしかしたら、菜緒の幼なじみの木村くんとか、あとはかおりもマネージャーやってるから何か知って……」
「ううん。」
菜緒は愛華の言葉の途中で大きく首を横に振った。
「自分で少しずつ蓮見くんと話すようにして知っていく。それが本当なのか嘘なのかも、自然な流れで知っていければいい。自分でちゃんと確かめたい」
「菜緒……」
まっすぐな目をした菜緒を見て、愛華は「そっか」と微笑んだ。そして、感心したように言葉を続ける。
「菜緒はすごいね」
「何が?」
なぜ褒められたのか分からないとい表情をして菜緒は愛華に問いかけた。すると、愛華は反省したような表情を見せて、ため息交じりに菜緒の質問に答える。
「わたしはさ、結構噂に振り回されちゃったり周りの評判を鵜呑みにしちゃうことが多いからさ。菜緒みたいに自分の基準できちんと人を見られるってすごいと思う」
思わぬ愛華からの誉め言葉に菜緒は手を横に振りながら思いっきり否定をする。
「いやいや、そんなことないよ……わたしも噂を信じちゃうことあるし周りに流されることの方が遥かに多いよ」
「そうなの?」
「うん、でも……」
菜緒はそう言ってチラリと淳人の方を見て、少し声を小さくして続ける。
「なんか、蓮見くんに関してはそういうのに振り回されたくないっていうか……」
その言葉を聞いて愛華は何かを察したようで、意味ありげな笑みを浮かべながらハッキリと菜緒に告げる。
「菜緒にとって蓮見くんは特別ってことだね」
愛華の言葉の意味が分からず、菜緒は目をパチクリとさせている。そんな菜緒のリアクションがおかしくて愛華はクスクスと笑った。
「まあ、いずれ分かるよ」
「何が?」
「さてと、わたしも蓮見くんに挨拶くらいしなくちゃね」
先ほどとは違って愛華は菜緒の問いには答えずに、そう言い残して楽しそうに自分の席へと向かった。
「……何なんだろう」
席に戻って淳人に挨拶をする愛華を見つつ、菜緒はボソッと呟いた。愛華の言葉や表情の意味を今の菜緒にはまだ理解することができないようだった。
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