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匠の言葉を聞いてクラスは少しざわつく。当の淳人は表情を変えず成り行きを見守っている。
「蓮見くん、真面目そうだし、野球部のエース候補だし、優等生って感じじゃないですか。それに……」
菜緒は匠の言葉を聞きながら何か嫌な感じがしていた。そう言っているのは本心じゃない気がしたからだ。
「あんまりクラスに馴染んでないでしょ?だからこういうのやった方がみんなと仲良くなれるかなと思って」
その言葉にクラスが一瞬静まる。匠は少しバカにしたような表情でチラリと淳人を見た。菜緒には匠の表情は見えなかったが、声のトーンや話し方から匠が前向きな気持ちで淳人を推薦しているようには感じられなかった。一部の生徒たちも同じように感じたようで、何とも言えない気持ちになっていた。
クラスの微妙な雰囲気を察しながら、向井は淳人の方を見る。
「蓮見、どうだ?嫌なら断わ……」
「別にいいですよ」
淳人は特に顔色を変えることなく、向かいの言葉を遮るようにあっさりと承諾した。
「そうか……じゃあ、蓮見、よろしくな」
「はい。」
淳人が返事をすると、匠はわざとらしく拍手をしながら「さすが」など大げさな言葉を淳人に投げかけた。淳人に無理やり押し付けるような形になって他の生徒たちはあまり良い気分はしなかったが、引き受けてくれたありがたさから拍手をした。菜緒も淳人に対する感謝の気持ちを込めて拍手していたが、心の中は匠に対する苛立ちでムカムカしている。
賑やかさが落ち着いてきたところで向井は再びクラスに向かって呼びかける。
「女子はどうする?」
向井の言葉を待ってましたと言わんばかりに菜緒は手を挙げた。
「わたしやります」
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