10人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話 決めつけたくない
入学式から約1ヶ月が経ち、どこか浮ついていたクラスの雰囲気も落ち着きを見せ始めつつある。グループも決まり始めて、誰がどんなタイプなのか、誰と誰が仲良いのかが何となく分かるようになってきた。
菜緒も例に漏れず自然とグループで過ごすようになり、席が後ろの宮下かおり、かおりと同じ中学出身の荒牧怜、そして玲と同じ吹奏楽部の広瀬愛華と一緒にいるようになった。
菜緒を含めて4人とも特に目立つタイプというわけでもなく、ものすごく静かというわけでもない。基本的に明るく素直で真面目な性格だ。教師側からすると、非常に接しやすい、そんなタイプの4人が集まったグループである。
他には、ちょっぴりヤンチャで目立つようなグループ、体育会系のノリで賑やかなグループ、静かでおとなしいグループ……など、様々な色を持つグループが出来上がっていた。
そんな中、どのグループにも属さず周りと距離を置いているのが淳人だった。周りと必要最低限の言葉しか交わさず、常に表情は変えず冷たい目をしている。
そんな淳人に対して、クラスメイトたちは積極的に絡むことをやめ、だんだんと敬遠するようになっていた。陰口とまではいかないが、それぞれのグループで淳人のことが話題に上がることは多く、菜緒のいるグループも例外ではなかった。
「愛華、蓮見くんと何かしゃべった?」
かおりの問いに愛華は首を横に振る。愛華は淳人の隣の席だったが、入学してから交わした言葉は一言二言で、しかもそれは「おはよう」の挨拶くらいだ。
「かおりこそ、部活でしゃべったりしないの?」
「んー、必要最低限って感じかな」
かおりは野球部でマネージャーをしており淳人と関わる機会が他のクラスメイトより多いものの、淳人と言葉を交わすことはそう多くなかった。
「でもさ、特に共通の話題とかなければ、そんなもんなんじゃないの?」
2人の話を聞いていた玲が冷静に言った。玲は淳人とは関わる機会もない上に元々男嫌いということもあり、淳人がどんな人間であろうと特に構わないと思っている。
「そうなんだけどさ、蓮見くんは全身から近づくなオーラが出てるというか、見えない壁を作ってるというか……」
愛華の言葉にかおりも頷いて同調する。それを聞いて玲も「確かに」と同意した。
「やっぱり冷たい人なのかなぁ」
「うーん。優しくはないのかもね」
「野球部でも木村しか打ち解けてないしなぁ。それも木村が人懐っこい性格だからこそって感じだし」
菜緒は3人の話を聞きながら、以前出会ったであろう淳人の顔をふと思い出していた。菜緒自身は入学式で正紀からの紹介で挨拶をして以来、淳人と話はできていない。自分の中にあるその記憶の真偽については結局確かめられていないのだ。
自分の記憶の中にあるのは優しい笑顔を見せながら楽しそうに話をする淳人だった。今の淳人の雰囲気からは想像がつかない表情だ。
もしかしたら自分の記憶違いかもしれないが、きちんと確かめられてない今、まだ淳人がどんな人なのか答えは出したくなかった。だから、淳人が冷たい人であるという結論を出そうとしている3人の話を自然と遮っていた。
「……蓮見くんはそんな人じゃないよ」
最初のコメントを投稿しよう!