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「へえー、そんなことがあったのか」
「ただ、その時名前も聞かなかったし、体型も小柄だったし、何より今と違って表情豊かだったし……だから、あれが蓮見くんだったのか完全な確証はなくて。本人に確認して違ったり覚えてなかったりしたら嫌だし。」
菜緒はそう言いながら苦笑いをした。
「ま、いずれ分かるんじゃねえの?」
「そうかな?」
「今すぐ答え出す必要なくね?少しずつ仲良くなりゃいいじゃん。それであいつのこと知っていくうちに、その時のやつが蓮見だったかどうかお前の中でハッキリするだろ」
いつもはお調子者でふざけたことばかり言う正紀だが時々こうやって真面目なことを言う。そんな正紀の言葉に菜緒は何度も救われて気付かされることが多かった。
「マサくんてさ……」
「ん?」
「たまーーーにこっちがハッとするようなこと言うよね」
「“たまに”に力入れ過ぎだろ。」
そう言って正紀は苦笑いをする。菜緒はそんな正紀の肩を叩きながら「ごめん、ごめん」と軽く謝った。そして、すぐに真面目なトーンで感謝の気持ちを告げる。
「……ありがと」
正紀は少しテレたように「おう」と返事をする。
淳人のことも含めて軽く世間話をした後で正紀は家に帰っていった。1人になった部屋で菜緒はベッドに寝転がり、改めて今日のことや中1の時のことを振り返っていた。そして、正紀の言葉を噛み締めながら、あの時の少年の顔と今の淳人の顔を思い浮かべた。
――蓮見くんと少しずつ仲良くなれたらいいな。
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