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そのボトルがルーチェの元に来たのは、珍しく雪の降る、ある冷えた朝のことだった。
その日、街は見渡す限り真っ白に染まり、凍えるような寒さのせいか人の姿は見当たらず、街は普段の様子からは想像もつかないほど静かだった。
誰にも踏まれていないまっさらな雪に足跡をつけながら、しんしんと雪の降り積もる中、ルーチェは昔よく足を運んでいた時計台に向かった。普段と変わらぬ軽装でふらりと出てきたため、すぐに歯がかちかちと鳴り、手はかじかんで感覚が遠くなった。家の窓から暖かそうな火の色が見えるたびに寒さが増す心地がしたが、白い息を手に吹きかけると、一瞬温度が戻ってきた。
長い螺旋階段をゆっくりと上がると、ルーチェは立ち入り禁止の貼り札を押しのけた。欄干も何もない時計台の上に身体を乗り出すと、そこには先客がいた。
「どうしたの、そんな薄着で」
赤い鼻を啜りながら振り向いた青年は、驚いたように目を丸くする。「よくそんな格好でいられるね。おれ、寒くてたまんないよ」
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