種を蒔く

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 ルーチェは一瞬言葉に詰まった。何かうまい返答はないのかと思案していた矢先、ジーノは「鼻水!」と悲鳴じみた声を上げた。ジーノの意識は垂れてきた鼻水をどうするかに集中しているらしい。情けない男の姿に、ルーチェは少しほっとした。  ジーノはルーチェに好意を寄せているらしい。少し前に「好きだ」と率直に思いを告げてきた彼は、返事はしなくていいと言った。分かりきっているからと。  彼は決してルーチェの好みではないが、かと言って嫌いでもない。何だか情けなくて頼りない気もするが、それと同じくらい優しくて気のいいひとだということも知っているからだ。でも答えはやはり、彼の予想通りだと思う。  ルーチェには、誰かの隣で幸せそうに笑う自分の姿がどうしても想像できない。 「なんかこう、『白銀の世界!』ってのを想像してたんだけどさぁ……」  鼻水のことはなかったかのように、ジーノは海に目を向ける。「全然そんなことないな。むしろ怖い気がする」  ルーチェは口の端を少し上げるに留めた。ルーチェの感想とは違っていたからだ。  この街へは、ルーチェがずっと幼い頃に越してきた。
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