花なんかみえない

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しまった、早くこれを脱いでしまわなくてはと、動かす片手が引っ張られて、せっかくはずしたボタンがまた穴をくぐって元に戻る。 「入学おめでとうございます。今年は桜が散りきらなくて、よく残っていて良かったですね」 「本当に、ねえ、桜、きれいね、良かったね」 頭上から聞こえる声は聞こえても、花なんかは目に入らない。「小学校」と言う名のばかでかい建物が待ち構えていて、それにたくさんの、たくさんの子どもたちが集まってくる。動かない足の代わりですとでも言いたいのか、ボタンを外そうともがく手だけがまだ、片手だけでもぞもぞと胸元を動いていた。
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