花なんかみえない

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足元をなにやら白いものが走っていく。こちらが向かうのとは反対方向に無数の白いものが、急ぎ足で走って帰って行く。それに付いて行ったら戻ることができそうで、その背中を目で追った。思っていたよりも歩いてしまったようで、すでに来た道の先にある、馴染みの場所はいくつもの角を曲がったことでわからなくなってしまっていた。その現実にぞっとして、ならば行くしかないのかと、先を見るけれども、まだその方角にあるであろう建物は姿を現さない。手をぎゅっと握って、行くか、戻るかを思案するのに、足は勝手に前へと進む。その横をまた、白いものが走り去り、行くな、行くなと握った手を解いて、連れ戻そうとするのを耐えるのが一苦労だった。 せおった鞄から、カタ…カタ…と音がして、それを発するのはなにかと、足元を見る代わりに今度は背中に意識を向ける。
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