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ベッドサイドモニターのアラームが鳴り響く。
表示された波形と数字の全てが、永遠に戻らない事を指し示していた。
それは、時間にしてたった八分程度の事。
「芽衣の顔、何か笑っているようじゃない?」
母親が、頬を撫でながらそう言った。
「うん、うん」
父親は、ボロボロ涙を零しながら、まだ温かいその手を握った。
その側で、黙々と作業をする黒衣の誰かがいる。
機材の全てをワゴンに収めると、家族に向かって一礼した。
それに気付いた父親と母親が、
「ありがとう御座いました。ずっと意識が戻らなかった娘が、過ごすはずだった高校生活を“当たり前で普通の日常”を、最期に楽しませてあげる事が出来て……本当にありがとう御座いました」
と、何度も頭を下げた。
「いえ、失礼致しました。ありがとう存じます」
黒衣の誰かは静かにそう言うと、父親に封筒を手渡し、再び一礼した。
そして「わたくしは、これで失礼させて頂きます」と言い残し、ワゴンを押して部屋から出て行った。
父親の手に渡された封筒には『胡蝶の夢貸し舎』と、表書きがしてあった。
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