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「夢貸し?」
父親が怪訝そうに柳眉を寄せる。
「そう。今わの際に……見る夢……」
母親は、握り締めた両手を、額に強く押し当てながら言った。
♦♦
慌ただしかった病室に、沈黙が降りてくる。
数人いた看護師たちが全て退室したからだ。
「医師……」
父親が、悲痛な面持ちで声を掛ける。
「もう……」
と、担当医師が力なく応えた。
すると、家族でも医者でもない、黒衣の誰かが、
「どの辺りを、お貸し致しましょう?」
そう言葉を継いだのだ。
母親が、ボロボロ涙を零しながら、
「…当たり前で、普通の……」
と、やっとの事で、絞り出すように呟いた。
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