笑わないCA

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「今のままでOJT研修をクリアできると思っているの?」  美人に迫力が加わると、誰でも黙ってしまうに違いない。  なんてことを考えられる状況ではないことも同時に梅田(うめだ)朱里(あかり)は、わかっていた。  目の前にいる先輩CAの早乙女(さおとめ)柚希(ゆずき)さんは、そのまま黙ってこつこつとクリップボードをペンで叩きながら、こちらを見ている。目を反らしたい気持ちをぐっとこらえて何とか目を合わせる。  四月に大手航空会社JAPAN STAR AIRLINS株式会社に入社し、座学と実機研修を終え、OJT研修が始まった。 先輩CAと共に乗務をするこの研修では、一週間以内に先輩から合格を言い渡されないと、CA職からの配置換えもあるらしい。 「もしかして、あの覚悟をもう持っていたりするの?」 「いえ」 「なら、こういったクレームが二度と入らないようにして」 テーブルの上に置かれたのは、お客様からの意見書。朱里は恐る恐る意見書を読むと、頭を抱えたくなった。 『背の高い女性CAの笑顔が怖かった』  搭乗した便や搭乗時刻も確認すると、朱里たち早乙女チームが乗っていたものと合致していた。  採用基準で身長が一六〇センチ以上と決められており、同期や先輩と比べても朱里は一〇センチほど高い。書かれていた特徴に当てはまるのは、残念ながら朱里しかいない。 「そのクレーム以外は完璧ね。あなたならば、私の言いたいことはわかるかしら」 「申し訳ございません」 「荒川、同期なんだから、なんとかして」  デブリーフィング後から朱里の隣にずっといた荒川(あらかわ)誠人(まこと)は、表情を変えることなく頷く。 「以上。オフ明けがラストフライトだから、よろしく」  席から立ち上がった柚希さんはそう言い残すと、スタッフルームを颯爽と出て行った。
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