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「ごめん。私のせいで」
「別に。なんで出来ないのか不思議でしょうがないけど」
ギュッと拳を握りながら、ちらりと誠人を見る。気にしている様子がなさそうな顔で、腕を組んで何かを考えている。これ以上声をかけても仕方がないので、朱里は部屋を出ようとしたところで、誠人に腕を掴まれる。何事かと思い、誠人を見ると先ほどまでとは違い、少し意地が悪い顔になっていた。
「とりあえず、明日は駅前に十時に集合な」
突拍子もない言葉に朱里は目を丸くする。朱里の反応を楽しんでいるかのように誠人はじっと朱里を見ている。この男、相変わらずよくわからない。
「言っている意味がわからないんだけど?」
「まあまあ騙されたと思って」
誠人は手をヒラヒラ振って、スタッフルームを出て行く。朱里は首をかしげながら、誠人が出て行った先を黙って見るしかできなかった。
仕事さえ完璧にできていればクレームが入ることがないと今日まで信じていた。
笑顔がCAにとって必須なのかは今でもわからない。だが、ここ数日誠人と仕事をすると、自分のぎこちなさを痛感していたのも事実だ。
180センチの大柄に似合わない、お客様が安心するような笑顔。
朱里にとって、今まさに喉から手が出るほど欲しい笑顔のスキルを誠人は持っている。
このままでは本当に配置換えかもしれない。
国際線のチーフパーサになるには、ここで躓くわけにはいかない。
明日合格を取るためには、今までと違う方法で笑顔を習得するしかないんだけど……。
朱里は腹を括って、誠人のスマホにメッセージを送った。
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