笑わないCA

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「だ、大丈夫?」  どうしたら良いかわからないまま慌てている朱里の隣で、膝をついて誠人は女の子に目線を合わせる。 「大丈夫か?」  誠人は優しく落ち着いた声で、泣いている女の子の頭を撫でる。 「ごめんな。ケガはないか」  泣き止んだ女の子は頷くと、後ろから慌てた様子で母親がやってきた。 「ごめんなさい。あの、お怪我とか」 「大丈夫です。お気になさらないでください」  何度も頭を下げる母親を気にもせず。女の子は母親と手をつなぎ、楽しそうに歩いて行った。隣で女の子に手を振っている誠人の横顔は穏やかで、笑顔のお手本そのものだ。  思い返せば、母親と話している間も、誠人は子供と同じ視線で話していたし、声も穏やかだった。 「優しいんだね」  この穏やかな笑顔に近づけるにはどうしたら良いのか、朱里には見当もつかない。 「そうか? まあ、とりあえずペンギンでも見に行くか」  誠人がそう言った瞬間、スマホの着信音が鳴った。見ると、会社からのメールが来ていた。 『搭乗変更のお知らせ』  メールを確認すると、予定していたチームに代わり、朱里たちが明日の羽田と那覇の往復を担当することが書かれていた。 「明日は仕事か」 「そうだけど、最後の文章……」  朱里が気にしていたのは最後の文面だった。 『なお、この羽田・那覇間が、OJT研修の最終フライトになります』 「期限的にはそうなるよな」 「どうしよう」 「とりあえず、ゆっくり見たら帰るか」  朱里は頭を悩ませながらも、水族館の中を歩き進める。  下の階に降りると、ペンギンエリアがフロアの中央に広がっていた。 気持ちよさそうに泳ぐペンギンたちを見ながら、隣に立っている誠人の横顔をちらりと見る。誠人は目を輝かせながら、食い入るようにペンギンたちを見ていた。朱里もそんな誠人に倣うように、じっくりとペンギンたちを見ることにした。  どのくらいペンギンたちを見ていたのだろうか。気が付くと飼育員がやってきて餌やりを始めた。 「そろそろ出るか」  誠人と水族館から出ると、外の眩しさに朱里は目を細めた。 「昼ごはん、どうする?」
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