笑わないCA

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 高校生たちの楽しそうな姿を懐かしく見ていると、誠人が小声で声をかけてきた。朱里ははっと我に返り、先輩CAに続き搭乗する。  この後はパイロットとのブリーフィングとギャレーや客席の準備。手際よくやらなければ、オンタイムで出発ができない。自分がやるべきことを思い出しながら、機長と副機長と打ち合わせに参加する。 「那覇の天気は快晴だが、途中雲行きが怪しいところがあります。もし揺れる可能性があれば、シートベルトサインを出すので、速やかに対応してください」  機長からの注意事項が伝え終わると、早速出発準備に取り掛かった。  羽田那覇間のフライトは約三時間。ほぼ満席の状態できちんとドリンクを全員に配るには、ギリギリだ。ドリンクサービスの手順を思い返しながら、担当エリアの出発準備を確実に終わらせていく。 『搭乗時刻になります。各自スタンバイ願います』  チーフパーサから機内アナウンスが入る。朱里たちCAは各自のスタンバイ場所に立ち、乗客を出迎えると、機内はあっという間に賑やかになった。 「俺の席ここ?」 「えー、窓側じゃないの?」  高校生の楽しそうな声が聞こえてくる。 高校生たちを避けながら、荷棚に荷物がきちんと入っているかを入念にチェックしていく。 朱里と誠人で高校生たちの頭上を確認していると、小さな声で呼び止められた。  声が聞こえた方を見ると、少し青白い顔をした女子高生がいた。 「どうなされましたか?」  できるだけ穏やかな声を心がけながら、朱里は女子高生に返事をした。 「酔い止めってありますか。飛行機を乗るのが初めてで」 「只今お持ちします」  誠人にアイコンタクトをしてから、持ち場を離れギャレーに入る。 酔い止め薬の隣にポケットから出した飴も置いてから、女子高生のもとに運ぶ。不安そうな顔をしている彼女に目線を合わせるように、少し屈む。 「お待たせいたしました。離陸まで少しお時間がありますので、今のうちに飲んだ方が良いと思います。気分が良くなりましたら、こちらの飴も召し上がってくださいね」 「ありがとうございます」  空になったコップを女子高生から受け取り、朱里は素早くギャレーで片付ける。  再度機内の荷物チェックをしに戻ると、誠人がほとんど確認してくれていた。相変わらずの手際の良さに本当に同期なのかと疑いたくなる。  ドアチェックを終えると、ちょうど機内アナウンスが入った。自分達の席に朱里も座り、シートベルトサインが消えるのを待つ。無事にオンタイムで出発した機体は大空に向けて飛び立った。  サインが消えたのを合図に、朱里たちはシートベルトをさっと外し、ギャレーに入る。
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