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王妃の帰還
私は昔どこかで見たシーンを説明することが苦手だ───。
あれから言葉通り、瞬く間に時が過ぎた。
武器製造、バリアー展開など様々な巫女の能力の使い方を懇切丁寧に指導(レクチャー)してくれたのはラウラだった。
ナルシストでプライドが高く、能力(才能)の無駄遣い男だと思っていた。
すべて渋々やるのかと思っていたら、事の他真剣に説明や解説を加えてくれた。
私のためではないだろう。
この国のために私を仕込んでいるだけ。
そういう男だとずっと───ずっと思っていた。
戦場に駆り出されても傍で的確にすべきことを指示してくれた。
次第に判断力もついてきた。
ただ従わせるだけのゴリ押しではなかった。
……器用貧乏なんだろうなと心境が変化していくのにそうは掛からなかった。
地味顔というのは、美人でもブスでもない。
のっぺらでもない。
ただ目立たない顔立ちだというだけだ。
私が何を言いたいのか。
……そう、化粧映えする。
少し手を加えるだけで如何様にも変容する。
シミもソバカスもない。ましてや、まだシワもない。
顔のバランスも悪いわけではない。
回りくどい言い方をしたが、要するに───私は化粧化けした。
最初は誰もそんなことを考えなかった。
見苦しいわけでもなく、ただただ地味なだけ。
たまたま気ままな旅から帰省した王妃──興味がなくて陛下が一人でいることを気にも留めていなかった──の目に止まった。
止まらないわけが無かった。
救世の神子をしているのだから。
『これだから男は駄目なのですよ』
陛下の奥様にしては若々しく、美し過ぎる王妃は、額に手を当てながら深い深い溜息をついた。
『どんな女性も自分を鼓舞するために化粧をしますわ。時に想う相手に見初められるために化粧しますの。少しでも綺麗であろうとし、自身の自信のために着飾る。ましてや救世の神子であるなら尚更民の羨望であるべきです。それをそのままにして置くとは何ごとですの? 』
ごもっとも。
私ですら意識していなかった。
最低限のTPOの薄化粧程度で甘んじていた自分を恥じねばならない。
まぁ、要は女としての自覚の欠如。
幸か不幸か、陛下とラウラを筆頭にした結果、口頭だけの報告のみで私を民に紹介すらしていない。
根本の欠落である。
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